2009年11月14日

今野敏『疑心 隠蔽捜査3』

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 シリーズ第3弾。今野敏はまだこのシリーズしか読んでなくて、たいへん偏ったままなんですけど、とにかく『隠蔽捜査』と『果断 隠蔽捜査2』はかなり好きで、人にも結構薦めました。

 本作はアメリカ大統領が来日することが決まって、その警備体制をめぐる話。所轄の署長である竜崎にとって、指示に従って進めていけばいいと思っていたら、方面警備本部長という異例の辞令が下りて、指示する側になってしまうというもの。そこにテロ計画の情報があり…という流れ。

 ただし、今回の最大のピンチは別にあって、竜崎の秘書官としてつく女性キャリアに恋愛感情を抱いてしまうということです。心を揺さぶられて冷静は判断を下すことができなくなってくることを自覚しながらも自分でコントロールできないもどかしさがあるのです。それをどうやって解決していけばいいんだというわけで、この合理性のかたまりみたいなキャラクターだからこその意外な変化球でした。

 私は、はじめに置かれている、アイドルが一日署長をやるエピソードが好きでした。竜崎の性格を面白さをもって表していて、しかもそれが後になって活かされてるわけで印象的です。

 全体としては、今回はまるでキャラクター小説になってしまっていて、ちょっとそこを押し過ぎという気もしたのと、テロ計画のリアルさがあまり伝わってきてなかったので、中盤の展開に違和感を覚えました。
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サンプル「あの人の世界」

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 江戸東京博物館を後にして、こちらを観ました。先週日曜の夜公演です。

 サンプルはこれが2度目。今年5月の「通過」がすごく面白かったので観たわけですが、今回は正直困りました。これを素直に評価できる理解力や感性がないようで、いったいどうしたものかというかんじ。

 2層構造のようになっていて、舞台装置では地上と2階という組み方になっています。2階部分では倦怠期の夫婦が過ごしていて、その下で、シュールな世界が表されるので、私は地上世界と地下世界という印象をもって観てました。集合無意識のようなものが地下世界として表現されているのかなと。

 すっかり理解するようなものでもないのかもしれませんが、行われる動きやセリフの意味の文脈がわからなくて、しかもシュールさとか自由さに面白さを感じるところもなくて、どういうスタンスで観るべきなんだろうと思うばかりでした。少なくとも、面白いという感想は出てこなかったということです。

 アフタートークのゲストが岩井秀人で、いつもよりスゴくわかりやすかった、っていうところからして、一瞬のけぞりそうになりました。


 作・演出 松井周
 出演 古舘寛治 石橋志保 田中佑弥 深谷由梨香 芝博文 辻美奈子 古屋隆太 奥田洋平 渡辺香奈 善積元 山崎ルキノ 羽場睦子
 東京芸術劇場小ホール1にて
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「よみがえる浮世絵 うるわしき大正新版画展」江戸東京博物館

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 先週日曜が最終日で、その閉館1時間半前に入場という何度目かのパターンとなりました。

 個人的には、月岡芳年が“最後の浮世絵師”ってインプットされてるんですけど、その後の日本の版画が死滅していたわけではないということがよくわかりました。

 明治以降、衰退の一途をたどっていた浮世絵ですが、明治末の江戸回顧の流れがあり、また、海外への輸出用の版画作品なんかがあったようです。そこを通過してできた大正期と昭和初期の新版画が今回の展覧会の中心となっています。また、ムラー・コレクションというパートがあって、ロバート・ムラーというアメリカ人が学生時代に川瀬巴水の「清洲橋」と出会ってから収集をはじめたということなんですけど、この人が1940年という時期に新婚旅行を兼ねてコレクションを増やすために来日しているんです。その来日時の様子も紹介されていますが、そのような時代の日米の交流が感動的でした。

 川瀬巴水や伊東深水のほか、魅力的な作家が目白押しで、かなりの収穫だったという印象です。私の好みでは、美人画よりも風景画や風俗画に強く惹かれました。外国人作家のチャールズ・バートレットのインドの風景画なんかも新鮮でよかったです。

 そんな新版画も、1960年代になると、彫師や摺師の老齢化などもあって、終わりを告げるのでした。
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2009年11月11日

「落語娘」

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 ミムラが前座3年目の落語家を演じていて好感がもてましたが、物語の中心となるのは、その師匠が禁断の噺を取り上げるというところにあります。

 津川雅彦演じるその師匠は不祥事を起こして出入り禁止となってるような落語家ですが、テレビの企画に乗って、噺をした者が命を落としてきたという呪われた演目「緋扇長屋」に手を出すこととなるのです。その演目にまつわる由来が紹介され、本当に危なそうな気配も出てきて…という展開。また、こんな邪道な企画が落語界で温かく見守られるわけもないのです。一連の出来事が師弟の絆の深まりにつながるところ、師匠の「緋扇長屋」を高座に掛ける場面などが見所です。

 不満なところを言えば、呪われた噺であることが本当っぽいことの演出が不十分に感じられること、タイトルが「落語娘」で主演がミムラなんだし、噺の語り口も魅力的だったので、もっと観たかったということ、というあたり。

 監督 中原俊
posted by 行き先不詳 at 23:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画・DVD | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

KAKUTA「甘い丘」

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 KAKUTAを観るのは今回がはじめて。本作は2008年の岸田戯曲賞の最終候補作品で、その再演だということです。先週金曜の夜公演を観てきました。

 行き場のない人たちが勤めるサンダル工場を舞台にして、そこを居場所にしている人たちの姿が痛さを伴いながらもパワフルに演じられます。

 この工場が街からは蔑まれているらしく、職場環境もよくありません。この工場に面接を受けるために女性ふたりがやって来るところから物語ははじまります。ひとりは刑務所を出所したばかりの若い女性で、もうひとりは夫に逃げられた主婦で場違いとしか見えません。とても続かないのではと思われるも、寮母として住み込みで働きはじめるのです。季節の移り変わる中、しだいに活き活きとしていき、さらにここに来た理由もわかってくるのです。

 濃いめのキャラクターたちを演じる俳優たちのパワフルさが生きる力強さにも通じていて、楽しくもあり痛々しくもあり、とても惹き付けられました。面白かったです。

 作・演出 桑原裕子
 出演 椿真由美 大枝佳織 成清正紀 村上航 桑原裕子 高山奈央子 三谷智子 原扶貴子 横山真二 佐藤滋 若狭勝也 馬場恒行 野澤爽子 高島雅羅
 シアタートラムにて
 
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2009年11月08日

東野圭吾『新参者』

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 日本橋で起きた殺人事件を加賀恭一郎が捜査します。新参者とは、この被害者である女性が日本橋に越してきたばかりということでもありますが、それ以上に、加賀恭一郎自身が日本橋署に来たばかりだということによります。

 この事件の周辺捜査などから、章立てごとに煎餅屋や料亭、瀬戸物屋など日本橋という土地柄を表すような人たちとの関わりがあって、それぞれで短篇ミステリーのような趣き。それが捜査が進展していくことで、つながっていき、真相に辿り着くという展開で、全く素晴らしすぎます。

 人情味あふれる街での加賀の活躍ぶりが、お前何者だよッ的なツッコミを入れたくなりますが、ちゃんと本人が言われてるのが私にはおかしかったです。
posted by 行き先不詳 at 12:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 本・雑誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「ブタがいた教室」

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 ブタを飼って最後に食べよう、ということを教育として実践した試みが実話としてあって、その映画化。昨年公開の作品です。教師役として妻夫木聡が主演していますが、映画の中心は、ブタをめぐって揺れ動く子どもたちです。監督は前田哲。

 小学6年生の担任となった新任教師が、ブタを飼って最後に食べることを提案します。子どもたちはかわいい子ブタを前に素直に飼うことを受け入れ、Pちゃんと名づけて世話をするようになるのです。でも、ほとんどペットとして飼ってるわけで、当然、食べるなんてムリという子どもたちがたくさん出てきます。しかし、食べることを前提に飼いはじめていたことから、子どもたちは二分されて、結論を出すために涙ながらに討論をしてくことになります。


 私は、この「いのちの授業」自体がズレてると思います。まず、ブタを飼う前にこそよく説明し、議論をさせなければフェアじゃないです。“責任”ということが大きな論点になっていくのですが、それははじめに、最後に食べるという約束で飼いはじめたからということと、6年生だから卒業したら飼い続けられない、ということによるのです。それって、いのちの大切さを考えることなんでしょうか。しかも、この担任教師は行き当たりばったりにはじめていて、結論の出しようのない問題を子どもたちに投げ掛けているという点でも、彼こそ無責任で腹立たしくさえあります。大杉漣演じる教頭が、ブタを飼いはじめた頃に、「いい授業になるといいですね、子どもたちにとっても、あなたにとっても」といったセリフがありますが、それが的確な皮肉に聞こえます。

 映画としては、子どもたちの間で討論をしていくリアルさが最大の見所であることに違いありません。不愉快な落とし所に落ち着くことは回避されていてまだよかったのと、討論してはじめて浮上してくるキャラクターなどが印象に残ります。

 それから、この授業が同僚の教師たちから、冷めた目で見られているんだろうと窺われますし、おそらく孤立すらしていると疑われますが、誰かと居酒屋で議論くらいさせてみたいような気がしました。
posted by 行き先不詳 at 11:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画・DVD | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする