2011年02月27日

西村賢太『苦役列車』

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 非常にセコい話から入ると、『きことわ』は単行本を買ったのに、なぜか「苦役列車」は「文藝春秋」で済ませようと思ってたら、当然「きことわ」も掲載されてるわけですし、その上、『苦役列車』には受賞作以外に1篇収録されてるのを「文藝春秋」を読んでから知って、結局購入することになったのは、ちょっと損した気分になったりもして…。


 クセになって単行本のほうは読んできたのですが(過去作123456)、まさか芥川賞を受賞するなんて、という思いがありました。今後の作品がどう変化するのか、藤澤清造全集は刊行なるのか、というのが興味深いところです。

 それから、「WEB本の雑誌」の「帰ってきた営業日誌」に芥川賞受賞記念とかで、年代ごとのリストが載ってて大変参考になります。

 それで、受賞作「苦役列車」のほうは19歳の日払いの仕事をしてた頃の話となっていて、怠惰な日々に現れた友人となりうる男が登場して、少し前向きに変わるきっかけを得ますが、やはりそこはうまくいくわけもなく…といったところ。随所に、読者としてツッコミを入れたり、突如ツボに入って電車の中で笑いをこらえたりするところもあり、やっぱり面白い。

 現在に至るいきさつが語られているので、はじめて著者の本を読む人にも入り口としてはいいかもしれません。それから、藤澤清造が今回は出てこないと思ったら、最後に触れられてるのが律儀にさえ感じました。


 もうひとつの短篇「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」は、川端康成賞の2度目の候補になったときの賞をめぐる葛藤を、ぎっくり腰に苦しむみじめさと二重移しにして自虐的に描くもので、前回の芥川賞候補になったことにも触れられていて、受賞後に読んでこその一作です。

 川端康成賞って一般の読者にはそれほど注目する向きはないと思いますが、川端賞の株がちょっと上がるんじゃないかと思えるほどの渇望ぶりです。

 作中で貫多は、野間文芸新人賞を受賞したときのジンクスで、賞を冠した人の著作を決まった古本屋で買うために、今回は川端康成の本を探します。ところが、買った直後に、そんな自分への疑いも出てきます。
 考えてみれば文学賞を欲しがる心根なぞ、サラリーマンの出世願望のそれと概ね同質のものであろう。そして川端賞を欲してやまぬ自分もまた、名声慾にかつえた乞食根性丸出しの下賤の者には違いない。こんなのを否定し、心底白眼視するのが本来の"藤澤清造流"のはずである。

 この後、

 川端康成の本は、居室に戻ったらすぐに書棚の最上段に表紙をこちら側に向けてディスプレイし、銓衡会の日まで朝な夕なに拝むつもりである。

 とあって、あれッてずっこける感じになるのですが、ともあれ、このときは受賞に至らずに終わっています。
posted by 行き先不詳 at 01:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 本・雑誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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