電車で読んでたら、危うく乗り過ごしそうになりました。気がつくと、ぐぅっと引き込まれているのです。まったく、面白すぎです。
自転車のロードレースの話です。主人公は、日本のロードレースのチームで、エースのアシストをしている男、白石誓(しらいしちか)。彼は、トップをめざすのではなくて、自分が犠牲になってでもエースを勝たせる今のポジションがいいと思っています。
何といっても、ロードレースがどういうふうにレースが組み立てられるのかということが重要です。空気抵抗を受ける先頭は不利なので交代しながら走るとか、チームのエースを勝たせるために、自分は力を使い果たしてでもエースの前を走って引っ張っていくとか、そういう「勝つためだったら何でもする」的ではない姿勢が必要のようです。そこには、ギラギラしていない駆け引きがあって、さわやかです。そんなレースのシーンが断然よくて、面白くてしょうがない。チーム内の人間関係、エースの石尾がどんな人間なのか、白石の昔の彼女の出現、石尾につぶされた袴田という男の存在などもあって、主人公を揺さぶります。
そんなレースシーンの流れが「惨劇」の章で崩れます。冒頭の断章で、悪いことが起きる予兆となっているのですが、それがこの章で引き起こされるのです(予想とは違った「惨劇」でしたが)。そこからは、一気にミステリー的な展開にもなっていて、それによって明らかになる真相は、鳥肌ものです。もしかしたら、人によっては、評価を下げることもあるかもしれませんが。私としても、別に青春スポーツ小説のままでも十分だったくらいでしたから。しかし、『サクリファイス』の本当の意味が、そこではっきりと分かってくるのですが、その重さは衝撃的で、ロードレースを扱った作品のテーマそのものとも直結しているのです。
とにかく読むのを中断することがもどかしいほどに、楽しい一冊でした。


